日本では近年、再生可能エネルギーへの転換や電気自動車の普及、データセンターの増設など、電気を扱う現場の需要がかつてないほど高まっている。一方で、電気工事士や電気主任技術者の高齢化は深刻で、業界全体として人手不足が慢性化しているのが現状だ。
経済産業省の関連資料でも、電気保安人材の不足はたびたび指摘されており、特に地方では一人の技術者が複数の施設を掛け持ちするケースも珍しくない。需要が右肩上がりなのに、供給が追いついていない。このミスマッチが、いま電気業界に参入する人にとっては大きなチャンスになっている。
太陽光発電設備の保守点検ひとつをとっても、資格を持った技術者でなければ法的に作業できない。AIに仕事を奪われるという話をよく聞くが、電気主任技術者のような業務独占資格は、現場での判断と責任が伴うため、機械に置き換えられる心配は極めて少ない。むしろ、テクノロジーの発展が新たな仕事を生み出し続けている分野だ。
まず知っておきたい二つの国家資格
電気エンジニアを目指すなら、最初に理解しておきたいのが電気工事士と電気主任技術者という二つの国家資格の違いだ。この二つは仕事の内容も、取得の難易度も、その後のキャリアパスも大きく異なる。どちらを選ぶかで、数年後の働き方がほぼ決まると言っても過言ではない。
電気工事士は、住宅やビル、店舗などの電気設備を実際に施工するための資格だ。第二種と第一種があり、第二種は一般住宅や小規模店舗の低圧(600V以下)工事が範囲。第一種になると、工場や大型ビルの自家用電気工作物まで手がけられる。第二種は学歴や実務経験が一切不要で、試験に合格すればすぐに免状が交付される。筆記試験の合格率は約50%、技能試験は約60%で、国家資格の中では比較的取りやすい部類に入る。
一方の電気主任技術者、通称「電験」は、発電所や変電所、工場、ビルなどの電気設備の保安監督を担う資格だ。第三種、第二種、第一種の三区分があり、まずは第三種(電験三種)を目指すのが一般的である。電験三種の合格率は例年8%から20%程度で推移しており、国家資格の中でも難関に分類される。ただし、合格すれば電気のスペシャリストとしての評価は一気に高まり、就職や転職で大きな武器になる。
資格・職種別の比較表
| 項目 | 第二種電気工事士 | 第一種電気工事士 | 電験三種(第三種電気主任技術者) |
|---|
| 作業範囲 | 一般住宅・小規模店舗(600V以下) | 工場・ビル等の自家用電気工作物+一般用 | 電圧5万V未満の自家用電気工作物の保安監督 |
| 受験資格 | なし(誰でも受験可) | なし(ただし免状交付には実務経験3年以上必要) | なし(誰でも受験可) |
| 試験難易度 | 筆記合格率約50%、技能約60% | 筆記合格率約30%前後 | 合格率8~20%程度 |
| 年収目安 | 300万~500万円程度 | 400万~700万円程度 | 300万~600万円程度(経験次第で1000万円超も) |
| 独立開業 | 比較的しやすい | しやすい | 実務経験を積めば可能 |
| 主な就職先 | 電気工事会社、建設会社、設備管理会社 | 中堅・大手電気工事会社、工場設備部門 | 工場、ビル管理会社、電力会社、保安協会 |
実際のキャリアパスを考える
電気工事士からキャリアをスタートさせる人の典型的な流れはこうだ。まず第二種を取得し、電気工事会社に就職する。未経験者を歓迎する会社は多く、資格取得支援制度を設けている企業もある。東京・八王子市の株式会社秀電気のように、学歴・経験不問でスタッフを募集し、先輩が一から指導する体制を整えている事業者も少なくない。
現場で数年経験を積んだ後、第一種電気工事士に挑戦する人もいれば、電験三種の勉強を始める人もいる。第一種の免状交付には3年以上の実務経験が必要なため、第二種で働きながら実績を積み、タイミングを見て第一種の試験を受けるというのが自然な流れだ。
電験三種ルートは、最初から電気保安の専門職を目指す場合に選ばれる。独学で数年かけて合格を目指す人もいれば、専門学校や通信講座を利用する人もいる。科目合格制度があるため、一回の試験で全科目をパスできなくても、合格した科目は最大3年間免除される。この制度を活用し、2年から3年かけてじっくり取得するケースが一般的だ。
未経験から電気エンジニアを目指すには
「文系出身だし、電気の知識なんてゼロです」という声をよく聞く。しかし、第二種電気工事士は学歴不問、職歴不問、年齢不問で受験できる。実際、まったくの異業種から転職して電気工事士になった人も少なくない。オープンアップネクストエンジニアのような、未経験者向けの研修センターを運営する企業もあり、基礎から学べる環境は整いつつある。
大事なのは、最初の一歩を踏み出すことだ。第二種電気工事士の筆記試験は四肢択一のマークシート方式で、出題範囲は一般知識、配線図、電気理論、法令など。技能試験は事前に公表される13問の候補問題から1問が出題され、実際に電線や器具を使って40分間で施工する。候補問題が事前にわかっているから、練習を重ねれば確実に合格ラインに届く。市販のテキストと工具セットで独学する人もいれば、講習会に通う人もいる。自分の生活スタイルに合わせて選べばよい。
電験三種を目指す場合は、ある程度の覚悟が必要だ。理論、電力、機械、法規の4科目をすべてクリアしなければならず、計算問題も多い。合格までの平均学習時間は1,000時間以上とも言われる。しかし、取得後のリターンは大きく、ビル管理会社や工場の電気主任として安定したポジションを得られる可能性が高い。定年後も働ける資格として、シニア層からの人気も年々高まっている。
地域によって異なるニーズと働き方
東京や大阪などの大都市圏では、オフィスビルや商業施設の電気設備管理の需要が圧倒的に多い。一方、地方では太陽光発電所の保守点検や、工場の電気主任技術者としてのニーズが高い。たとえば、北海道や九州ではメガソーラーの設置が進んでおり、そこで働く電気技術者の求人は常に存在する。
また、都市部と地方では年収水準にも差が出る。同じ第二種電気工事士でも、東京では月収が高めに設定されていることが多いが、地方ではその分、生活コストが低く、実質的な手取り額で見ると大差ないケースもある。転職や就職を考える際は、給与の額面だけでなく、その地域での生活費も含めて判断したいところだ。
外国人技術者の受け入れも徐々に進んでいる。特定技能ビザの対象職種に電気工事関連が含まれており、東南アジアを中心に日本で電気技術者として働く外国人も増えている。日本語でのコミュニケーション能力が求められるが、技術さえあれば国籍を問わず活躍できるフィールドでもある。
行動に移すための具体的なステップ
まずは自分がどちらのルートを進みたいのか、ざっくりと方向性を決める。体を動かして現場で働くのが好きなら電気工事士、デスクワークや管理業務が中心でも構わないなら電験三種が向いている。もちろん、両方持っていれば最強だ。
方向性が決まったら、試験日程を確認する。第二種電気工事士の上期試験の申し込みは例年3月から4月、筆記試験は5月から6月、技能試験は7月から8月だ。電験三種は上期と下期に分かれており、CBT方式での受験も可能になっている。一般財団法人電気技術者試験センターのウェブサイトで最新の日程を必ず確認してほしい。
勉強を始める際は、いきなり高額な講座に申し込むより、まず市販の過去問題集を一冊買って、自分の今の実力を把握するのが効率的だ。電気工事士であればYouTubeにも無料の解説動画が豊富にある。電験三種はWatt Magazineのような専門メディアの合格体験記を読むと、現実的な学習計画がイメージしやすくなる。
最後に、同じ目標を持つ仲間を見つけること。SNSや勉強会、資格学校のコミュニティなど、情報交換できる相手がいるとモチベーションが続きやすい。一人で黙々と勉強するより、誰かと励まし合いながら進むほうが、結果的に合格までの時間は短くなるものだ。