日本では現在、電気設備を扱える技術者の不足が深刻化している。理由はいくつか重なっている。まず団塊世代の大量退職だ。高度経済成長期に建設されたビルや工場の電気設備を維持してきたベテランたちが現場を去り、その知識が次世代に十分継承されていない。加えて再生可能エネルギー分野の急速な拡大が状況を加速させている。太陽光発電所の保守点検、電気自動車(EV)向け充電インフラの設置、風力発電設備のメンテナンス——これらはすべて電気工事士や電気主任技術者の資格がなければ手を出せない領域だ。
一般財団法人電気技術者試験センターの発表によれば、令和8年度の第一種電気工事士試験(上期)の申込受付は2026年2月から3月にかけて行われ、CBT方式の学科試験が4月から5月、技能試験が7月に実施された。下期試験の申込受付は2026年7月27日から8月13日までとなっており、これから受験を検討するなら下期が現実的な選択肢になる。受験手数料はインターネット申込みで13,000円、郵送による書面申込みでは14,400円(いずれも非課税)だ。
ここで一つ押さえておきたいのが、資格の種類によるキャリアの方向性の違いである。電気工事士は主にビルや工場、住宅の電気配線工事や設備設置を担う実務資格で、「手に職をつけて長く働ける」と表現されることが多い。一方の電気主任技術者(通称「電験」)は発電所や変電所、大規模工場などにおける電気設備の保安監督を行う管理的な資格だ。後者のほうが社会的評価は高く、就職先も多いとされるが、その分難易度も上がる。
年収とキャリアのリアル
数字で見ていこう。Payscaleの調査によると、日本におけるElectrical Engineerの平均年収は約314万円(基本給ベース)と報告されているが、これはあくまで職種全体の平均値であり、経験年数によって大きく変動する。経験1〜4年の初級エンジニアで約330万円、中堅層(5〜9年)では約476万円、ベテラン層では約580万円程度まで上昇する。さらに、dodaの「平均年収ランキング2025」によれば、2025年の全職種平均年収は429万円で、電気関連職種はこれを上回る水準にあるケースが多い。
実際の転職事例を見るとさらに具体的なイメージが湧く。ある転職支援サービスのレポートでは、37歳の組み込み系アプリケーション開発エンジニアが年収650万円で転職に成功した例や、51歳のプロジェクトマネージャーが80社応募の末に年収800万円を獲得した例が紹介されている。56歳の設計エンジニアが年収900万円で転職したケースもあり、年齢よりも専門性の深さとマネジメント経験の有無が収入を左右する傾向が見える。
地域差も無視できない。東京都の平均年収が476万円で全国トップであるのに対し、地方では水準が下がる。しかしその分、地方には大型太陽光発電所の保守要員や工場の電気設備管理者といった、都市部とは異なるニーズが存在する。特に北海道や九州では再生可能エネルギー関連の求人が増加傾向にあり、都市部との年収差を生活コストの低さで補える場合も多い。
| 資格・職種 | 目安年収(初級) | 目安年収(ベテラン) | 主な勤務先 | 強み | 注意点 |
|---|
| 第二種電気工事士 | 350〜450万円 | 500〜700万円 | 工務店、電気設備会社 | 受験ハードルが低く独立開業も可能 | 第一種に比べ作業範囲が限定的 |
| 第一種電気工事士 | 400〜550万円 | 600〜900万円 | 大手ゼネコン系、工場 | 大規模工事に対応でき単価が高い | 実務経験要件あり |
| 第三種電気主任技術者 | 450〜600万円 | 700〜1,000万円 | ビル管理会社、発電所 | 就職先が非常に多い | 試験難易度が高く合格率は一桁台 |
| 組み込み系エンジニア | 400〜550万円 | 650〜900万円 | 自動車メーカー、電機メーカー | ソフトウェアスキルと電気知識の両方を活かせる | 技術の変化が速く継続学習が必要 |
| 電気設計エンジニア | 400〜600万円 | 700〜1,000万円 | プラント、重電メーカー | 専門性が高く代替が効かない | プロジェクト単位の繁忙期あり |
資格取得のステップと学習のコツ
第二種電気工事士は多くの電気技術者にとって最初の関門になる。学科試験は電気理論や配線図、関係法令などが出題範囲で、技能試験では実際に配線作業を行う。筆記試験対策としては、過去問題集を繰り返し解く方法が最も効率的だと多くの合格者が口を揃える。技能試験については、ホームセンターで材料を揃えて自宅で練習するスタイルが主流で、YouTube上にも複数の日本人講師による無料解説動画が公開されている。
電験三種(第三種電気主任技術者)への挑戦を考えているなら、理論、電力、機械、法規の4科目を順次合格していく戦略が現実的だ。一度に全科目合格を目指すより、1科目ずつ確実に仕上げていく方法が働きながらの受験者には向いている。科目合格には有効期限がないため、自分のペースで進められる点が救いになる。
興味深いのは、資格取得支援制度を設ける企業が増えていることだ。受験費用の補助や合格時の報奨金制度を導入する電気工事会社もあり、求人票に「資格取得支援あり」と明記されているケースでは、入社後のキャリア設計が立てやすい。
地域別に見る電気技術者の需要
**首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)**では、大規模再開発プロジェクトが相次いでいる影響で、ビル電気設備の施工管理技師の求人がとくに活発だ。オフィスビルの建て替えやデータセンターの新設が続いており、第一種電気工事士の有資格者に対する引き合いが強い。
**中京圏(愛知・岐阜・三重)**は自動車産業の集積地であり、トヨタをはじめとするメーカーの生産設備を扱える電気技術者の需要が安定している。EVシフトに伴う生産ラインの刷新が進んでおり、従来のシーケンス制御に加えて、ロボット制御やIoT関連の知識があると優位に立てる。
**関西圏(大阪・京都・兵庫)**では、2025年の大阪・関西万博を契機に整備されたインフラの維持管理業務が拡大している。加えて、老朽化した公共施設の改修工事が各自治体で計画されており、電気設備の更新案件が継続的に発生する見込みだ。
九州・北海道では先述のとおり再生可能エネルギー関連が好調で、メガソーラー発電所の保守点検要員や風力発電設備の電気主任技術者が求められている。これらの地域では転勤が少なく、腰を据えて働きたい中堅層からの人気が高い。
転職市場をどう渡り歩くか
50代で年収900万円を実現した設計エンジニアの事例からもわかるように、年齢だけでキャリアの可能性が閉ざされるわけではない。ただし、書類選考の通過率は50代で1割を切るというデータもあり、応募書類の質が極めて重要になる。職務経歴書には「どのような電気設備を担当し、どのような成果を出したか」を具体的に記述することが効果的だ。「工場の生産ライン電気設計を担当」ではなく「自動車部品工場の組立ラインにおいて、PLC制御盤の設計から立ち上げまでを一貫して担当し、設備停止時間を前年比30%削減した」という書き方で、採用担当者の目に留まりやすくなる。
転職エージェントの活用も検討したい。電気・電子業界に特化したエージェントであれば、非公開求人を含めた選択肢を提示してくれる。実際に「まずはエージェントと話してみることが一番の近道だった」と語る37歳の転職成功者の声もある。複数のエージェントに登録し、提示される求人の質や担当者の業界理解度を見極めながら、自分に合ったパートナーを選ぶのが賢いやり方だ。
これからの電気技術者に求められること
再生可能エネルギーとデジタル化の波は、電気技術者の仕事を確実に変えつつある。東北大学や東京大学などの研究チームが発表した分析によれば、屋根設置型太陽光発電とEVバッテリーを組み合わせた「PV + EV」システムによって、日本の電力需要の最大85%を賄える可能性があるという。こうした分散型エネルギーシステムの普及が進めば、それらを設置し保守する電気技術者の役割はさらに拡大する。
また、工場のIoT化に伴い、電気設備とネットワークの両方を理解できる人材の価値は上がり続けている。純粋な電気工事スキルだけでなく、通信プロトコルやデータ分析の基礎知識を身につけておくことで、今後のキャリアの選択肢は格段に広がる。
資格取得に踏み切るなら、まずは第二種電気工事士の下期試験を目標に据えるのが現実的な第一歩だ。令和8年度の下期試験は2026年7月27日から申込受付が開始される。学科試験はCBT方式と筆記方式が選べ、技能試験は11月21日に実施予定となっている。電気技術者試験センターの公式サイトで詳細を確認し、早めに学習計画を立てることを勧める。現場で必要とされる人材になるための道は、意外と身近なところから始まる。