相続税はすべての相続で課されるわけではない。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算し、課税価格の合計がこれを上回った場合に申告が必要になる。例えば配偶者と子2人の3人が相続人のケースでは、基礎控除は4,800万円だ。これを下回れば相続税はかからず、原則として申告も不要になる。
ただし注意したいのは、小規模宅地等の特例を受けたい場合だ。自宅の土地が対象なら最大80%の評価減が受けられる制度で、これを使うと控除額以下に収まるケースもある。ところが特例の適用には申告書の提出が必須で、「相続税がゼロだから申告しなくてよい」と思い込んで受け損ねる人が後を絶たない。
10か月の間に何をすればよいか
申告期限は原則、相続開始を知った日の翌日から10か月。ここまでに必要なのは、財産の洗い出し、相続人の確定、遺産分割の協議、そして申告書の作成だ。
最初に手をつけたいのは戸籍の収集である。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本で相続人を確定し、相続人全員の戸籍謄本と住民票を用意する。現在は戸籍証明書の広域交付制度が整い、本籍地が遠方でも最寄りの市区町村窓口で請求できる。兄弟姉妹は対象外なので注意が必要だが、以前より格段に手続きが楽になった。
続いて預貯金、不動産、有価証券、生命保険、そして借金や葬式費用まで、財産の全体像を整理する。金融機関ごとの残高証明書を取り寄せ、不動産なら固定資産税評価額の証明書も必要になる。遺産分割協議を行う場合は、遺産分割協議書と相続人の印鑑証明書もそろえる。書類の不備で期限ぎりぎりまで追い込まれるケースが多いので、集められるものから先に確保しておきたい。
受けられる制度を確認してから申告を
申告書を出す前に、使える特例を確認しておきたい。代表格が前述の小規模宅地等の特例で、居住用なら330平方メートルまで80%、事業用なら400平方メートルまで80%の評価減を受けられる。相続した家に住み続けることが要件のひとつで、住民票だけを移して同居を主張したケースは否認されることもあるため、要件の確認は慎重に。
配偶者が相続する場合は、配偶者の税額軽減を使えば、法定相続分または1億6,000万円まで相続税がかからない。生命保険金や死亡退職金には、500万円×法定相続人数の非課税枠もある。こうした制度は申告の際に適用しないと受けられないものが多く、手続きを急ぐあまり特例を使い損ねるのは惜しい。
自分で申告するか、税理士に依頼するか
財産の構成が預貯金中心で相続人もシンプルなら、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で確認しながら自分で申告することも可能だ。一方、不動産や非上場株式が含まれる場合は評価の計算が複雑で、専門家の助けが要る。相続税申告の税理士報酬は、一般的に遺産総額の0.5%から1.0%程度が目安とされ、5,000万円の財産なら25万円から50万円前後になる。土地の評価や相続人が複数のケースでは加算されることもあるので、最初に見積もりを取るとよい。
| 項目 | 自分で申告 | 税理士に依頼 |
|---|
| 手間 | 書類収集と計算に時間がかかる | 専門家が手続きを一括で進める |
| 費用の目安 | 書類の実費程度 | 遺産総額の0.5%~1.0%程度 |
| 向いているケース | 預貯金中心で相続人が少ない | 不動産・株式など複雑な財産がある |
| 主なリスク | 特例の適用漏れ | 報酬が発生する |
2026年度の税制改正で変わる点
2026年度の税制改正では、相続に関わる動きが目立つ。教育資金の一括贈与制度は延長されない見通しで、今後は暦年贈与の年間110万円の基礎控除を活用する方法を考える必要がある。また貸付用不動産や不動産小口化商品を使った節税は、取得から一定期間内のものは従来ほどの効果を見込めなくなった。既に保有している商品は2027年1月1日以降に新制度が適用されるため、贈与や売却のタイミングを早めに検討したい。
こうした改正は頻繁に起こる。過度な節税効果をうたう商品には特に注意し、常に最新の税制動向を確認する姿勢が大切だ。
各地で利用できる相談窓口
手続きに迷ったら、地域の税理士会や商工会議所の相談窓口を頼るのも手だ。国税庁のホームページには申告要否判定コーナーのほか、各種特例の解説もまとまっている。大阪でマンションを相続した50代のKさんは、「土地の評価でつまずき、早めに税理士へ相談して特例を適用できた。10か月は長そうで短い」と話す。準備は早ければ早いほど、選択肢は広がる。
遺産をめぐる手続きは、感情的な負担も重なる。それでも期限は動かない。まずは財産の棚卸しから始めて、必要な申告かどうかを確認する一歩を踏み出してほしい。