電気工事士とは、住宅やビル、工場などの電気設備を安全に設置・保守する国家資格を持つ専門技術者だ。具体的には、分電盤の据え付けからコンセントの増設、照明器具の取り付け、さらには高圧受電設備の工事まで、電気が最終的に消費者の手元に届くまでの最後の区間を担っている。
業界が今抱える最大の課題は人材不足だ。経済産業省の報告によると、第一種電気工事士は2020年代前半時点で想定需要約20.4万人に対して約2万人の不足が見込まれていた。高齢化によるベテラン層の大量退職が進む一方、若年層の入職が追いついていない。現場では「求人を出しても応募が来ない」という声が常態化しており、建設業やプラント業界全体に波及する構造的な問題になっている。
一方で、この人手不足は求職者にとって大きなチャンスでもある。未経験者を積極採用する企業が増え、資格取得費用を会社が負担するケースも一般的になってきた。岐阜県や愛知県など東海地方を中心に、「未経験OK」「資格取得支援あり」を掲げる求人が目立っている。
第二種と第一種、二つの資格の違いと取得ルート
電気工事士の資格には第二種と第一種があり、扱える工事の範囲が異なる。
第二種電気工事士は、一般住宅や小規模店舗など、比較的身近な電気工作物の工事ができる資格だ。受験資格に制限はなく、誰でも挑戦できる。試験は学科と技能に分かれており、2026年度(令和8年度)の上期試験では、学科は4月23日から6月7日までのCBT方式、または5月24日の筆記方式で実施される。技能試験は7月18日または19日だ。下期試験も9月から12月にかけて予定されている。
第一種電気工事士になると、工場やビルなど最大電力500kW未満の需要設備まで工事範囲が広がる。ただし受験には、第二種合格後3年以上の実務経験が必要となる。2026年度上期の学科試験はCBT方式のみで4月1日から5月8日まで、技能試験は7月4日に実施される。
以下に二つの資格の違いを整理した。
| 項目 | 第二種電気工事士 | 第一種電気工事士 |
|---|
| 作業範囲 | 一般住宅・小規模店舗の電気工事 | 工場・ビル等(最大電力500kW未満) |
| 受験資格 | 制限なし | 第二種合格後3年以上の実務経験 |
| 試験方式 | CBTまたは筆記+技能試験 | CBT+技能試験 |
| 合格率の目安 | 学科約60%、技能約70% | 学科約50%、技能約60% |
| 年収の目安 | 約450〜550万円 | 約550〜700万円 |
| 独立開業 | 可能(一般住宅向け) | 可能(より幅広い案件に対応) |
| 第二種から取得し、現場経験を積みながら第一種を目指すのが一般的なキャリアパスだ。東京や大阪など都市部では第一種保持者の需要が特に高く、関東や関西の大手ゼネコン系電気工事会社では第一種取得を昇給条件にしているところも少なくない。 | | |
実際の年収とキャリアの広がり
電気工事士の平均年収は約550万円とされており、日本の給与所得者全体の平均約460万円を上回る。これは専門性の高さと資格の希少性が評価されているためだ。ただし、この数字はあくまで目安であり、勤務先の規模や地域、保有資格、経験年数によって変動する。
駆け出しの第二種電気工事士であれば月給18万円〜22万円程度からスタートするケースが多い。3年から5年の経験を積み、第一種を取得すると月給25万円〜35万円程度に上がる。さらに施工管理技士や電気主任技術者といった上位資格を取得すれば、年収800万円以上も視野に入る。実際、ある調査では経験10年以上の第一種電気工事士の年収は約600万円〜750万円に達するというデータもある。
独立して一人親方になる道もある。自分で案件を獲得し、直接施主と契約するスタイルで、うまく軌道に乗れば年収1000万円を超えるケースも報告されている。ただし独立には営業力や経理の知識、道具への初期投資が必要で、リスクも伴う。岐阜県養老郡に拠点を置くある電気工事会社では、独立を目指す社員に対して仕事の委託や備品援助、資金面の相談までサポートする制度を設けており、こうした「独立支援型」の雇用が地方を中心に広がりつつある。
未経験から電気工事士を目指す人へ
「電気の知識はゼロだけど、手に職をつけたい」という人にとって、電気工事士は現実的な選択肢だ。前述の通り第二種には受験資格の制限がなく、高校や大学で電気工学を専攻していなくても挑戦できる。
実際に未経験からこの業界に入った30代男性の例を紹介する。神奈川県在住の田中さん(仮名)は、飲食業界から一念発起して第二種電気工事士の資格を取得した。会社員として働きながら週末に講習会に通い、学科はCBT方式で受験。技能試験では工具の使い方から学ぶ必要があったが、職業訓練校の短期講座を活用して合格した。現在は横浜市内の電気工事会社に勤務し、「前職より収入が安定し、技術が身につく実感がある」と話す。
学習方法は大きく分けて三つある。一つ目は日本エネルギー管理センターなどが開催する集中講習会の受講で、短期間で学科と技能をまとめて学べる。二つ目は職業訓練校(ハロートレーニング)の活用で、雇用保険受給者であれば費用を抑えて通える場合がある。三つ目は独学で、市販のテキストと過去問題集を使って自分のペースで進める方法だ。どの方法を選ぶにせよ、技能試験の練習には実際の工具と材料を使った反復練習が欠かせない。
求人を探す際は、「未経験者可」「資格取得支援制度あり」といった条件で絞り込むとよい。名古屋や岐阜、大阪などでは製造業や建設業が盛んなため求人数が多く、東京都内ではマンションやオフィスビルの改修工事案件が豊富だ。北海道や東北では再生可能エネルギー関連の電気工事需要が伸びており、太陽光発電設備の設置やメンテナンスを手がける企業が人材を求めている。
将来性とこれから求められるスキル
電気工事士の仕事は、AIやロボットに代替されにくい分野だと言われている。現場ごとに建物の構造や既存設備の状況が異なり、臨機応変な判断と手先の器用さが求められるからだ。加えて、再生可能エネルギーの普及や電気自動車(EV)充電設備の設置需要、5G基地局の整備、防犯カメラやスマートホーム関連機器の取り付けなど、電気工事士の活躍領域はむしろ拡大している。
情報通信技術の進化も追い風だ。データセンターの建設ラッシュやオフィスビルの通信インフラ更新に伴い、高圧・低圧双方の電気工事需要が底堅く推移している。防犯設備の需要拡大も顕著で、コンビニエンスストアや物流倉庫への防犯カメラ設置、マンションのオートロックシステム導入など、セキュリティ関連工事の依頼は年々増加傾向にある。
資格取得後にどうキャリアを伸ばすかは各自の目標次第だ。安定した会社員生活を望むなら、大手電気工事会社やゼネコンの電気部門に就職し、施工管理技士や電気主任技術者を目指すルートがある。独立志向が強いなら、第二種取得後に経験を積み、第一種へステップアップした上で開業する道もある。いずれにせよ、最初の一歩は第二種電気工事士の学科試験申し込みから始まる。2026年度下期の申込期間は第二種が8月17日から9月3日まで、第一種が7月27日から8月13日までだ。試験センターの公式サイトで最新情報を確認し、自分に合った学習計画を立ててほしい。