相続が起きても、全員が申告義務を負うわけではない。判断の目安となるのが「基礎控除額」だ。基礎控除額は次の式で求められる。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
たとえば配偶者と子2人の計3人なら4,800万円、4人なら5,400万円が目安になる。相続財産の課税価格の合計額がこの基礎控除額を上回れば、申告が必要だ。注意したいのは、預貯金だけでなく不動産や有価証券も時価評価して合算する点。不動産は路線価や固定資産税評価額をもとに評価するため、残高だけでは判断できない。
もう一つ見落としがちなのが、課税価格が基礎控除額以下でも申告が必要なケースだ。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用したい場合は、申告書の提出が特例適用の条件になっている。つまり税額がゼロになる見込みでも、申告しなければ節税の恩恵を受けられない。相続開始前7年以内の贈与財産がある場合も、相続財産に加算して申告する必要がある。
申告までの流れと必要書類
1. 相続開始からすぐに行う手続き
被相続人が亡くなったことを知った日から7日以内に死亡届を市区町村へ提出する。死亡診断書と一体になった届出書の左半分が死亡届、右半分が医師が記入する部分だ。同時に火葬許可申請書を提出し、火葬許可証を受け取る。年金受給者だった場合は速やかに年金受給権者死亡届を提出し、健康保険証の返却と資格喪失届も忘れずに行いたい。金融機関に連絡すると口座が凍結されるため、以後は遺産分割協議書など必要書類を揃えるまで引き出しができなくなる。
2. 3か月から4か月以内の手続き
相続人全員の確定と、遺言書の有無の確認、相続財産の調査を進める。相続放棄を検討する場合は3か月以内が期限だ。被相続人に所得税の確定申告が必要だった場合は、死亡日の翌日から4か月以内に準確定申告を行う。
3. 10か月以内の申告と納付
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内。提出先は被相続人の住所地を管轄する税務署だ。期限内に申告しないと、無申告加算税や延滞税が上乗せされる可能性がある。偽りその他不正の行為によって相続税を免れた場合は、刑事罰が科され得る点も頭に入れておきたい。
主な必要書類は、相続税の申告書、戸籍謄本、除籍謄本、住民票の除票、遺産分割協議書、相続関係説明図、預貯金や有価証券の残高証明書、不動産の登記事項証明書と固定資産税評価証明書などだ。相続人が複数いる場合は遺産分割協議を先にまとめ、全員の印鑑証明書を添付する必要がある。
節税に使える主な特例
相続税の負担を抑える代表的な制度を整理しよう。
| 特例名 | 内容 | 適用条件 | 効果 |
|---|
| 配偶者の税額軽減 | 配偶者の取得財産が1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税 | 申告書の提出、遺産分割協議書の写しが必要 | 配偶者の相続税が原則ゼロに |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の敷地330㎡まで評価額を80%減額 | 配偶者や同居親族が居住・相続すること | 土地の評価額が大きく圧縮 |
| 未成年者控除 | 満18歳までの年数1年につき10万円を控除 | 18歳未満の相続人がいる場合 | 未成年者の税負担を軽減 |
| 特に小規模宅地等の特例は、土地評価額が相続税全体に与える影響が大きく、適用の有無で税額が大きく変わる。ただし申告が適用の前提となるため、要件に当てはまりそうなら専門家に相談しながら進めたい。 | | | |
自分で申告するか、専門家に依頼するか
財産構成がシンプルで、課税価格が基礎控除額をわずかに上回る程度なら、自分で申告することも可能だ。国税庁が開設している申告要否判定コーナーや、相続税の申告書作成コーナーを活用すれば、入力しながら手続きを進められる。
一方で、不動産や事業用資産、株式など評価が複雑な財産がある場合は、税理士へ依頼する方が安心だ。申告ミスによる追徴課税や、特例を適用し損ねて節税機会を逃すリスクを避けられる。税理士報酬は財産規模や内容によって異なり、ケースごとに見積もりを確認するのがよい。地域の商工会議所や税理士会が運営する無料相談窓口を最初に利用するのも有効だ。
地域の相談窓口を活用する
税務署では相続税に関する無料の個別相談を実施している。電話相談に加え、予約制の面接相談も受け付けているため、まずは被相続人の住所地を管轄する税務署へ問い合わせてみよう。各自治体の無料相談会や、司法書士・行政書士が参加する相続相談会も日程が多く設定されている。
相続税申告は、悲しみの中で期限に追われる重い手続きだ。基礎控除額と特例の存在を事前に把握しておくだけで、慌てずに行動できる。まずは財産の棚卸しから始め、必要に応じて専門家や相談窓口の力を借りてほしい。10か月という期限は長いようで、気づけば過ぎてしまう。早めの一歩が、余計な税負担を防ぐ鍵になる。