国税庁の統計を見ると、相続税を実際に納めた人の割合は近年1割を超え、身近な問題になりつつあります。都心の地価上昇や預貯金の積み上がりで、基礎控除を超えるご家庭が増えているのが背景です。
日本では「財産のことは家族で話しにくい」という文化もあって、亡くなってから初めて資産の全体像が判明するケースが少なくありません。預金通帳がどこにあるか、どの保険に入っていたか、誰も把握していない。そんな状況で10か月のカウントダウンが始まると、慌てて書類を集めることになります。
申告が必要なケースと基礎控除のしくみ
相続税の申告が必要になるのは、課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合です。基礎控除は次の計算式で求めます。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば法定相続人が配偶者と子ども2人の3人なら、基礎控除は4,800万円。遺産総額がこれを下回れば、特例を使わない限り申告は原則不要です。ただし、次のケースでは相続税がゼロでも申告が必須になります。
- 配偶者の税額軽減を適用したい(配偶者は1億6,000万円または法定相続分の大きい方まで非課税)
- 小規模宅地等の特例を使いたい(自宅の敷地などを一定面積まで評価額の80%または50%減額)
- 相続時精算課税を利用した贈与がある
特例は「申告して初めて使える」という点を覚えておいてください。申告しなければ適用されません。一方、生命保険金や死亡退職金には500万円×法定相続人の数の非課税枠があり、墓地や仏壇なども非課税財産です。借金や葬式費用は控除の対象になります。
10か月で押さえたい申告までの流れ
申告までに必要な手続きは、段階を踏んで進めます。まずは全体像を把握しましょう。
1. 相続の開始を知った日から7日以内
死亡届を市区町村役場に提出します。戸籍謄本や住民票の除票は後の手続きすべての起点になるため、ここが最初の山場です。
2. 1〜2か月:相続人の確定と遺言書の確認
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取り寄せ、法定相続人を確定します。並行して公正証書遺言の有無を公証役場で確認しましょう。自筆遺言があれば家庭裁判所の検認が必要です。
3. 1〜3か月:財産調査と相続放棄の判断
金融機関に残高証明書を請求し、不動産は登記事項証明書と固定資産評価証明書を取得します。負債が資産を上回る場合は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをします。
4. 3〜6か月:財産評価と相続税の概算
不動産は路線価や固定資産税評価額を基に評価します。土地の形状によっては評価減が可能で、非上場株式の評価は専門的な計算が必要です。この段階で相続税の概算額を出し、特例の適用可否を検討します。
5. 6〜9か月:遺産分割協議
相続人全員で遺産の分け方を協議し、遺産分割協議書にまとめます。特例を適用するには申告期限までに分割を終える必要があります。話がまとまらない場合は法定相続分で申告し、後で修正する方法もありますが、特例が使えなくなるリスクがあります。
6. 10か月以内:申告書の提出と納税
被相続人の住所地を管轄する税務署へ提出し、納税します。期限内に申告しないと無申告加算税や延滞税が上乗せされます。過少申告の場合は過少申告加算税もかかるため、正確な申告が大切です。
自分で申告するか、税理士に依頼するか
申告方法の選択肢を、費用の目安と合わせて比較しました。
| 方法 | 費用の目安 | 向いているケース | メリット | 注意点 |
|---|
| 自分で申告(国税庁e-Tax) | 書類取得などの実費のみ | 財産がシンプルで特例を使わない | 費用を抑えられる | 評価や計算の誤りによる修正リスク |
| 相続専門税理士に依頼 | 遺産総額の0.5%〜1%程度(1億円なら50万〜100万円が一つの目安) | 不動産や非上場株式がある、特例を使いたい | 特例の漏れ防止、税務調査への対応 | 依頼時期が遅いと加算が増える |
| 税理士法人の基本報酬+加算報酬 | 遺産4,000万円までで15万円程度から、1億円〜1億5,000万円で70万円前後が公表例 | 土地や相続人が多い | 報酬体系が明確で比較しやすい | 土地1箇所ごと等の加算が発生 |
| 税理士報酬は平成14年に規定が廃止されて以降、事務所ごとに自由に設定されています。「基本報酬+加算報酬」の合計で比較し、安さだけでなく相続実績や担当者との相性も重視してください。見積もりを複数社から取って総額を比べるのがおすすめです。 | | | | |
2026年の税制改正で変わるポイント
2026年度の税制改正では、相続税に関する項目も見直されました。貸付用不動産については、亡くなる前5年以内に取得・新築したものは、従来の評価方法ではなく実際の取引価額に近い評価(取得価額の80%相当)で評価されることになります。これは2027年1月1日以後に相続・贈与で取得する財産に適用される予定です。
賃貸マンションなどを相続対策に活用しようと考えていた方は、評価方法の変更を織り込んで計画を立てる必要があります。また、教育資金の一括贈与に係る非課税制度は2026年3月末で終了しています。今後は年間110万円の暦年贈与や相続時精算課税の活用を検討する形になります。税制は毎年変わるため、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で自分のケースを確認するのが確実です。
まずは財産の棚卸しから
相続税申告の第一歩は、何よりも「財産の全体像を把握すること」です。遺言書の有無、預貯金、不動産、保険、有価証券、そして借金。これらを一覧にできれば、申告の要否も判断でき、余裕を持って手続きを進められます。
相続は一生に一度あるかないかの手続きで、専門家に相談しながら進める方も増えています。市区町村や税理士会では相続に関する相談窓口を設けている場合が多いので、まずは近くの窓口や国税庁の情報を活用して、自分の状況を整理してみてください。期限は10か月。慌てず、でも早めの行動が安心への近道です。