2026年の日本のデジタルマーケティングを語るうえで欠かせないのが、SNS動向の変化です。企業のマーケティング担当者を対象にした調査では、自社で活用しているSNSとしてInstagramが約55%、X(旧Twitter)が約54%、LINEが約50%という結果になっています。注目すべきは、来期以降に予算やリソースを増やす施策の第一位に「ショート動画」が挙がっている点です。縦型動画を中心としたコンテンツが、認知から購入までを一気に担う時代へと移り変わりつつあります。
一方で、日本のマーケターが抱える課題は海外と様相が異なります。諸外国では「コンテンツ制作のスピード」が主な悩みですが、日本では「人材不足」が最も顕著な課題として認識されています。さらに、制作したコンテンツがどのチャネルで最も効果を発揮しているかを把握できていないマーケターが8割に上るとの報告もあり、効果測定の仕組みづくりが後回しになっている実態が浮かび上がります。
日本企業が直面する三つの壁
一人マーケターのリソース不足
地方の中小企業や製造業では、一人ないし兼任の担当者が広告運用、SNS投稿、サイト更新を一手に担うケースが一般的です。Adobeの調査でも、日本のマーケターは今後1〜3年の優先投資対象として「人材確保」を最も多く挙げており、限られた人員で多様な施策を回す難しさが際立っています。経験豊富な人材の採用は難しく、結果として「やるべきことは分かっているが手が回らない」状態に陥りがちです。
チャネル効果の見えにくさ
複数のSNSや広告媒体を並行運用しながら、それぞれの貢献度を正確に測れている企業は多くありません。日本のマーケターの27%が「どのチャネルが有効か全く把握できていない」と回答し、54%は「ある程度の理解はあるものの、インサイトが手作業でサイロ化して遅延がある」と答えています。数値が可視化されなければ、予算の配分も改善の判断も先延ばしにせざるを得ません。
AI活用への過度な期待
生成AIの登場で「AIに任せれば自動で回る」と期待する声も聞かれますが、実際には壁打ち相手や下書き作成といった補助的な用途に留まっている企業が大半です。AIが施策の実行そのものを担い始めた2026年において、入力するデータの質や運用の設計思想が整っていなければ、成果にはつながりません。ツールを導入すること自体が目的化してしまう危険性も潜んでいます。
実践に移すための四つのステップ
1. データを自社で握る基盤づくりから
Cookie廃止が完了した現在、第三者データに頼る運用は通用しません。自社サイトのアクセス解析や顧客データを第一方針データとして蓄積し、自給自足の体制を整えることが最初の関門です。大掛かりな基盤構築は不要で、まずは自社ECや問い合わせフォームのデータを一元化することから始められます。
2. GEO対応を検索対策の軸に
AI検索で「選ばれる」ためには、従来のSEOに加えて、明確に構造化された情報提供が欠かせません。専門性の高いテーマを網羅的に解説するページや、質問への回答を明確に示すFAQ形式のコンテンツは、AIエージェントからの参照を得やすくなります。自社の強みを端的に説明できる「情報の粒度」を意識しましょう。
3. ショート動画を獲得チャネルの主役に
予算増加の第一候補に挙がるショート動画は、InstagramのリールやTikTokで特に効果を発揮します。製品の使用シーンを短く切り出した動画を定期的に配信し、視聴者を商品ページへ誘導する設計が重要です。動画内で即決済が完結するソーシャルコマースの流れも加速しており、外部サイトへの遷移で離脱する「カゴ落ち」を防ぐ仕組みも検討価値があります。
4. 外注と内製の使い分けを明確に
人材不足を補う手段として、専門性の高い領域を外部に委託する選択肢があります。制作会社や運用代行を活用する際は、単なる投稿代行ではなく「購買につながる設計」ができるかどうかを確認しましょう。内製で対応すべき戦略設計と、外部任せにできる実行部分を切り分けることで、限られた人員でも成果を出せる体制が整います。
地域別・規模別の支援サービスの比較
| 支援タイプ | 対象 | 料金の目安 | 向いている企業 | 利点 | 課題 |
|---|
| SNS運用代行 | 全業種 | 月額10万円〜30万円が最多 | 一人マーケターの中小企業 | 投稿頻度を確保できる | 戦略まで委ねると属人化 |
| 動画制作支援 | EC・D2C | 案件ごとに設定 | ショート動画に注力したい企業 | CVR改善の実績が出やすい | 効果測定の仕組みが別途必要 |
| AI広告運用ツール | 中堅〜大手 | ツールにより変動 | 広告予算のある企業 | クリエイティブと配信を自動化 | 入力データの質が成果を左右 |
| インフルエンサー施策 | BtoC | 予算に応じて変動 | ブランド認知を広げたい企業 | 共感を得やすいUGCを創出 | 発信内容の品質管理が課題 |
小さく始めて、確実に育てる
デジタルマーケティングの変化は速く、すべてを取り入れる必要はありません。まずは自社データの一元化と、効果が測れているチャネルへの集中投資から始めるのが現実的です。ショート動画なら週2〜3回の投稿ペースから、GEO対応なら自社の強みを解説する記事1本からでも構いません。
日本のマーケター8割が効果把握に課題を抱える現状を踏まえれば、測定できる仕組みこそが競争力の土台になります。小さな成果を積み重ね、それを次の施策につなげる循環を作ることが、変化の激しい時代を乗り切る確かな道筋となるでしょう。まずは手の届く範囲から、一歩を踏み出してみてください。