かつて矯正治療といえば子どものもの、という印象がありました。ところが近年は、社会人になってから自分の歯並びに向き合う人が急増しています。ある矯正歯科グループの調査では、治療を始めた人のうち成人が65%を占め、12歳未満で始めるケースは23%にとどまったと報告されています。背景には、テレワークの普及やマスク生活で顔の下半分に意識が向いたこと、SNSで治療体験談が広がったことなどが挙げられるでしょう。
大人の矯正でとくに多い悩みが「出っ歯」です。同じ調査では、治療を始めたきっかけとして「見た目の改善」を挙げる人が最も多く、その中でも前歯が前方に突出するタイプの不正咬合を気にする声が目立ちました。機能面の改善を目的とする人は全体の27%にとどまり、多くの人が審美性を重視して治療に踏み切っていることがわかります。
装置選びが治療の満足度を決める
矯正装置には大きく分けて、歯の表面にブラケットを付けるワイヤー矯正と、透明なマウスピースを順に交換していくマウスピース矯正があります。この数年で状況は大きく変わり、直近5年以内に矯正を始めた人に限れば、マウスピース矯正を選んだ割合は50%に達し、表側ワイヤー矯正の38%を上回ったというデータもあります。見た目への抵抗感が少なく、通院頻度も抑えられることが支持される理由です。
とはいえ、マウスピース矯正はすべての症例に対応できるわけではありません。抜歯を伴う重度の症例や、奥歯の噛み合わせに問題があるケースでは、ワイヤー矯正の方が確実な結果を得られることもあります。治療を始める前に、自分の歯並びの状態を正確に診断してもらうことが何より大切です。
気になる費用の相場
矯正治療の費用は自由診療となるため、クリニックごとに価格設定が異なります。一般的な目安としては、次のような金額帯が知られています。
| 治療方法 | 部分矯正の相場 | 全体矯正の相場 | 特徴 |
|---|
| マウスピース矯正 | 約10万〜50万円 | 約60万〜120万円 | 透明で目立ちにくく通院頻度が少ない |
| 表側ワイヤー矯正 | 約30万〜60万円 | 約60万〜100万円 | 幅広い症例に対応できる定番の方法 |
| 裏側ワイヤー矯正 | 約40万〜70万円 | 約100万〜150万円 | 装置が歯の裏側にあり周囲に気づかれにくい |
| このほか、精密検査や診断料として3万〜5万円程度、調整中の通院費として毎回数千円、保定装置の費用が別途かかることもあります。初回カウンセリングを無料としているクリニックも多いので、複数院で相談してから決めるのが賢明です。なお、料金体系には、治療全体を一括で設定するトータルフィー制度と、調整のたびに費用が加算される都度払い方式があります。追加費用の有無は必ず確認しておきましょう。 | | | |
クリニック選びで失敗しないための4つのチェックポイント
矯正治療は数年にわたる長い付き合いになります。クリニック選びを誤ると、途中で担当医が変わる、思っていたより費用がかさむ、といったトラブルに見舞われる可能性もあります。以下のポイントを基準に、複数の医院を比較することをおすすめします。
1. 日本矯正歯科学会の認定医や専門医がいるか
矯正治療は一般歯科とは異なる専門性が求められます。日本矯正歯科学会が認定する医師が在籍しているかどうかは、治療の質を判断するうえで重要な指標になります。ホームページや院内の掲示で確認できます。
2. 診断内容と治療計画が具体的か
初回カウンセリングで、レントゲンや歯型を取ったうえで、治療期間や費用、リスクまで具体的に説明してくれるかどうかを見極めましょう。曖昧な説明のまま契約を進めるのは危険です。
3. 患者一人あたりにかける時間
1日の患者数が多すぎる医院では、十分な説明や丁寧な処置が期待できないことがあります。診療時間あたりの患者数は、良い歯医者を見分ける最も重要な指標のひとつとされています。1人あたり30分以上を確保している医院は信頼度が高いと言えます。
4. 保定期間を含めたトータルの費用
矯正が終わった後の保定期間も含めて、総額がいくらになるのかを確認してください。保定装置の調整費が別途かかるケースもあるため、契約前に見積もりを取ることが大切です。
治療を始める前のステップ
具体的に行動を起こすときは、次のような流れで進めるとスムーズです。まず、気になるクリニックを3院程度ピックアップし、それぞれでカウンセリングを受けてみてください。その際、同じ質問を繰り返すことで、説明の丁寧さや料金設定の違いが明確になります。次に、矯正専門の医院か一般歯科の矯正外来かを見極めます。症例数が多い専門医院は、経験値の面で安心感があります。最後に、デンタルローンの有無や分割払いの条件を確認し、無理のない支払い計画を立てましょう。矯正治療は長期間にわたる投資です。価格だけで選ばず、医師との相性や通いやすさも含めて総合的に判断することが、後悔しない選択につながります。