日本ではいま、電気の専門人材をめぐる需給ギャップが深刻化している。帝国データバンクの調査によれば、国内のインフラ設備の多くは高度経済成長期に整備され、2040年にはその約75%が建設から50年以上を経過する見通しだ。つまり、更新やメンテナンスの需要は今後右肩上がりに増える。
一方で、現場を支える人材は確実に減っている。日本の総人口は2011年以降13年連続で減少し、若年層の現場離れも進んだ。結果として、資格を持つ電気技術者の希少性は年々高まっている。景気に左右されにくい「食いっぱぐれない職種」と評されるゆえんは、こうした構造的な需要の底堅さにある。
追い風となっているのが再生可能エネルギー分野の拡大だ。政府は2040年までに再エネ比率を約4〜5割に引き上げる目標を掲げており、太陽光発電設備の施工や保守には高圧作業を扱える有資格者の存在が不可欠である。蓄電池の導入や省エネ設備の普及も、電気技術者の仕事領域を確実に広げている。
二つの代表的な資格——電気工事士と電気主任技術者
電気技術者を目指すうえで、まず理解しておきたいのが「電気工事士」と「電気主任技術者」の違いだ。どちらも国家資格でありながら、役割は明確に異なる。
電気工事士は、住宅やビル、工場などの電気配線工事や照明器具の取り付け、コンセントの増設といった現場作業を担う。実際に手を動かして電気設備をつくり上げる「プレイヤー」の立場だ。第二種と第一種があり、まずは第二種から取得するのが一般的なルートになる。第二種電気工事士の合格率は例年50%前後で推移しており、200〜300時間程度の学習で合格を狙える。資格取得にかかる費用は受験料や講習費を含めておおむね3万円台前半が目安だ。
一方の電気主任技術者は、発電所や変電所、工場、ビルなどの電気設備全体を保安監督する「管理者」である。設備の点検や管理、工事の監督が主な業務で、第三種(電験三種)、第二種、第一種と段階がある。電験三種の合格率は約16%と難易度が高いが、取得すれば就職先は非常に多く、AIに代替されにくい職種としても注目されている。
資格別の比較——コストとリターンを見極める
以下の表は、第二種電気工事士と第三種電気主任技術者(電験三種)について、費用、学習時間、年収の目安などを整理したものだ。いずれも国家資格であり、取得後は業務独占の強みを活かして長く働ける点が共通している。
| 項目 | 第二種電気工事士 | 第三種電気主任技術者(電験三種) |
|---|
| 受験費用 | 約32,000円〜33,000円 | 約12,000円〜15,000円 |
| 学習時間の目安 | 200〜300時間 | 500〜800時間 |
| 合格率 | 約50%(学科+技能) | 約16% |
| 年収の目安(会社員) | 350万〜550万円 | 300万〜600万円 |
| 独立後の年収目安 | 600万〜900万円 | 600万〜1,000万円以上 |
| 主な活躍の場 | 住宅・ビル・工場の施工現場 | 発電所・変電所・ビル管理 |
| 求められる姿勢 | 手を動かす現場力 | 全体を統括する管理力 |
| 表中の金額はあくまで目安であり、勤務先の規模や地域、経験年数によって変動する。とはいえ、独立を見据えた場合の収入の伸びしろの大きさは、どちらの資格にも共通する魅力といえる。 | | |
実際のキャリアパス——どんな選択肢があるのか
電気技術者のキャリアは、想像以上に多様だ。たとえば、第二種電気工事士を取得したあと、住宅メーカーや工務店に就職して現場経験を積み、ゆくゆくは独立開業するというルートがある。独立後は地域密着型の電気工事店として、一般家庭のリフォームや太陽光パネルの設置工事を手がけるケースが多い。
電験三種を取得した場合は、ビルメンテナンス会社や工場の電気管理部門、あるいは電力会社の関連企業に就職するのが一般的だ。なかには、JHK(日本電気設備保安協会)のような団体に所属し、複数の施設を巡回しながら保安管理業務を請け負うという働き方もある。実務経験を積んだあとに独立し、電気主任技術者として契約を結ぶフリーランスの道も開けている。
東京都在住の田中さん(仮名・40代)は、第二種電気工事士を取得後に工務店で8年間勤務し、その後独立。現在は年収900万円前後で、主に都内の住宅リフォーム案件を手がけている。「現場の仕事が好きで、自分のペースで働けるのが何より大きい」と語る。一方、大阪で電験三種を取得した佐藤さん(仮名・30代)は、大手ビルメンテナンス会社に勤務しながら、週末に副業として小規模施設の保安管理を請け負っている。二人に共通するのは、資格を足がかりに自分なりの働き方を築いている点だ。
これから電気技術者を目指す人へ
資格取得を検討するなら、まずは自分の適性を見極めることが大切だ。現場で体を動かしながらものづくりに携わりたいのか、それとも設備全体を俯瞰して管理する仕事に魅力を感じるのか。その答えによって、最初に目指すべき資格は変わってくる。
情報収集の手段としては、一般財団法人電気技術者試験センターの公式サイトで最新の試験日程や受験要項を確認するのが確実だ。また、各地域の職業訓練校や高等専門学校では、未経験者向けの講座や実技講習を実施しているところも多い。東京都立産業技術高等専門学校のように、卒業と同時に第二種電気主任技術者の資格認定に必要な科目を履修できるルートも存在する。
費用面での不安があるなら、各自治体が設けている資格取得支援制度や、ハローワーク経由で利用できる教育訓練給付金を調べてみるといい。制度は地域によって異なるため、まずは地元の窓口で相談してみることをおすすめする。