日本全国で電気工事士の人手不足が深刻化している。エアコンの設置台数は全国で1億台を超えると言われ、毎年の入れ替え需要に加えて新築やリフォーム時の工事依頼が絶えない。とりわけ夏場の繁忙期には、工事の予約が数週間待ちになる地域も少なくない。
さらに追い風となっているのが、太陽光発電システムや電気自動車(EV)充電設備といった新分野の拡大だ。政府の脱炭素政策を背景に、家庭用太陽光パネルの設置件数は堅調に推移しており、これに伴う電気工事の需要も増加している。また、マンションや商業施設へのEV充電スタンド設置義務化の動きもあり、電気工事士の活躍の場は従来の住宅配線工事から大きく広がっている。
一方で、高齢化によるベテラン職人の引退が進んでおり、業界全体で若手の育成が急務となっている。こうした需給ギャップが、電気工事士の待遇改善や独立後の高収入を後押ししているのが現状だ。
資格の種類と取得ルートを整理する
電気工事士の資格には大きく分けて第一種電気工事士と第二種電気工事士の二種類がある。第二種は一般住宅や小規模な店舗の電気工事が行える資格で、まずはここからスタートする人が多い。第一種は工場やビルなど大規模施設の工事も担当でき、より高度な専門性が求められる。
第二種電気工事士の試験は、学科試験と技能試験で構成されている。合格率は年度によって変動するが、おおむね50〜55%程度で推移している。勉強時間の目安は200〜300時間とされており、未経験者でも独学で十分に合格を狙える水準だ。令和8年度(2026年)の上期試験は、学科試験(CBT方式)が4月23日から6月7日まで、筆記方式が5月24日、技能試験が7月18日または19日に実施される。受験手数料はインターネット申込みで9,300円程度となっている。
実際に資格を取得した神奈川県在住の田中さん(34歳)は、「前職は飲食店勤務で電気の知識はゼロでした。通信講座とYouTubeの実技動画を活用して、約4ヶ月の勉強で一発合格できました」と話す。ポイントは技能試験の練習を繰り返すことだという。学科は暗記で乗り切れても、技能は手を動かして覚える必要があるからだ。
働き方別の収入イメージ
| 働き方 | 年収目安 | 向いている人 | メリット | 課題 |
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| 電気工事会社勤務(未経験) | 約280万〜380万円 | これから業界に入る人 | 研修制度が整っている、社会保険完備 | 繁忙期でも固定給 |
| 電気工事会社勤務(経験者) | 約400万〜550万円 | 安定的に働きたい中堅層 | ボーナスあり、資格手当がつく | 収入の上限が見えやすい |
| 個人事業主(一人親方) | 約600万〜900万円 | 独立志向のベテラン | 収入の天井が高い、自由度大 | 営業や経理も自分でこなす必要あり |
| 法人化(従業員雇用) | 約800万〜1,200万円 | 経営志向のある職人 | 大型案件を受注しやすい | 固定費や人件費の負担が増える |
| この表はあくまで目安であり、実際の収入は地域や専門分野、営業力によって大きく変動する。特に都市部では家電量販店からの依頼案件が多く、単価も高めに設定できる傾向がある。地方では競合が少ない分、安定した依頼を確保しやすいという利点がある。 | | | | |
| 特筆すべきは、エアコン工事の繁忙期(4月〜7月)における収入の伸びだ。通常期の工事単価が1台あたり1万円から1万5千円程度であるのに対し、繁忙期は2万円を超えることも珍しくない。熟練者であれば1日3〜4台の施工が可能で、日収6万円以上を稼ぐケースもある。この「季節単価」の存在が、電気工事士という職業の収入面での魅力をさらに高めている。 | | | | |
独立開業のリアル——成功のカギは人脈と専門性
独立後の収入に魅力を感じる人は多いが、実際に一人親方として成功するには技術力だけでは足りない。埼玉県で電気工事業を営む佐藤さん(42歳)は、「独立して最初の1年は、仕事の受注に苦労しました。結局、以前勤めていた会社の元請けから声をかけてもらい、徐々に紹介で広がっていきました」と振り返る。
独立を考える際に押さえておきたいポイントは以下の3つだ。
人脈の構築:独立前に、元請けとなるゼネコンや工務店、リフォーム会社との関係を築いておくことが肝心だ。独立後にゼロから営業するのは想像以上に大変で、開業から半年間は収入が激減するケースも多い。
専門分野の絞り込み:何でも屋ではなく、エアコン工事や太陽光パネル設置、あるいはスマートホーム関連の配線工事など、特定分野に強みを持つことで単価を上げやすくなる。特にEV充電設備の設置工事は、認定資格を取得することで差別化が図れる成長分野だ。
経理・税務の基礎知識:独立後は確定申告や見積書作成、請求書管理などを自分でこなす必要がある。開業前に税理士や社会保険労務士と相談しておくことを勧める。開業資金としては工具や車両、保険料などを含めて100万円から150万円程度を見込んでおくと安心だ。
これからの電気工事士に求められるスキル
電気工事の世界にもテクノロジーの波は押し寄せている。IoT機器の普及に伴い、ネットワーク配線やスマートホームシステムの設定ができる電気工事士の需要が高まっている。また、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)対応の住宅が増える中、太陽光発電と蓄電池、EV充電器を連携させるシステム設計の知識も重宝されるようになってきた。
こうした新分野に対応するため、各地の職業訓練校や民間の講習会では、スマートハウス関連の技術研修が実施されている。第二種電気工事士を取得した後、さらにスキルを積み上げたい人にとって、こうした研修は貴重な学びの場となる。
大阪で電気工事士として働く山田さん(29歳)は、昨年スマートホーム関連の認定資格を取得した。「お客様から『Alexaで照明を操作したい』と言われることが増え、従来の配線工事だけでは対応できなくなっていました。新しい分野を学ぶことで、単価の高い案件を任されるようになりました」と語る。
キャリアの第一歩を踏み出すには
電気工事士の資格取得を検討しているなら、まずは第二種電気工事士の試験日程を確認し、学習計画を立てることから始めよう。独学派には市販のテキストと過去問題集、そして技能試験用の練習キットを揃えるのが現実的なルートだ。効率的に学びたい場合は、通信講座の受講も選択肢に入る。受講料は数万円から十万円程度と幅があるが、自分の生活スタイルに合ったものを選ぶとよい。
また、資格取得後は、電気工事会社への就職や、すでに独立している先輩職人のもとでの修業期間を経て、キャリアを積み上げていくのが一般的な流れだ。いきなり独立を目指すのではなく、まずは現場で経験を重ね、人脈と技術を同時に育てていくことが、長い目で見たときの成功につながる。
電気工事士という仕事は、景気に左右されにくく、技術を磨けば磨くほど収入に反映される実直な職業だ。そして何より、暮らしの安心を支える社会的意義の大きい仕事でもある。資格取得を考えている方は、ぜひ一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。